契約結婚のススメ
 私は今の美加の発言で一番気になったことを聞いた。

「〝先日の電話〟って、おとといの電話ですよね?」

 美加はうなずく。あのいやらしい電話はやっぱり美加だったんだ。

「楽しかったですか?」

 今度はうなずいたりせず、ただ黙っている。

 さすがに肯定はしないか。

 でも、きっと楽しかったんだろう。私がやきもきしているだろうと思って。笑っていたんだ。その様子が目に浮かぶ。

 クルーザーで『発育不良のお嬢さん』と、私に耳打ちしたあの時のように。

 パーティー会場で、私に聞こえるように『彼がね、私に店を用意してくれるのよ』と笑って『冗談よ、奥様』と見下した時みたいに。

 ずっと私を笑っていたんだろう。

「安心してください。私は一貴さんと離婚しますから。だからもう、私を馬鹿にしないでください」

 ハッとしたように美加は顔を上げた。

「いつも私に聞こえるように、刺激しますよね。私は弱い人間なんです。まんまと傷ついて、まんまと尻尾を丸めて実家に帰ってきました」

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