契約結婚のススメ
「いえ、あ、あの――」

「私はあなたに、義母も一貴さんも枇杷亭も、なにもかも取られると思って泣いていました。馬鹿みたいですよね。あなたはそんなつもりじゃないのに勝手に」

「違う、違うわ」

「いいんですよ、あなたのせいじゃなくて、私が弱いだけですから」

 なんか、疲れた。

「おかあさん。疲れたんで部屋で休みます」

「陽菜」

 自分の部屋に入るまで義母が寄り添ってくれた。

「陽菜、大丈夫?」

「おかあさん……。私、どうしてこんなに弱いんだろう」

「少し休みなさい。今温かいミルクを持ってくるから」

 一貴さんを好きになんてならなきゃよかった。



 ***



 陽菜の実家に着いたのは夜八時を回っていた。

 もう少し早く来たかったが――。

 インターホンを鳴らし名前を告げると、ハウスキーパーではなく希子さんが迎えに出てくれた。

「どうぞ。陽菜はもう寝たのよ」

「具合が悪いんですか?」

「ううん。疲れたんだと思う。美加が来たから」

< 187 / 203 >

この作品をシェア

pagetop