契約結婚のススメ
 向かう道中、美加から電話があった。

『誠心誠意謝ってきました』

 ムカつくから、それだけ聞いて電話を切った。

 半分は八つ当たりだが、それでも事と次第によっては美加を許さない。

「食事は済ませたの?」

「いえ」

「じゃあまず、食事の準備をするわね」

 希子さんに断りを入れて、陽菜の部屋に様子を見に行った。

 部屋の電気はついていない。

 細く開いたカーテンの隙間から漏れた微かな明かりが、陽菜の顔を浮かび上がらせている。空気清浄機の微かな音だけが響く静かな部屋で、陽菜はベッドで寝ていた。

 起こさないようにそっと顔を覗き込んだ。

 よくよく見るとまつげが濡れているように光を反射している。

 泣いていたのか。

 陽菜……。


「どう? 寝ていたでしょう?」

「はい。ぐっすり」

「さあどうぞ」

「ありがとうございます」

 食欲はないが席についた。

「明日は土曜日ね。休めるの?」

「ええ」

 それならと、希子さんはワイングラスを差し出した。

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