契約結婚のススメ
私と彼が出会ったのは大学三年の八月。
夏真っ盛りのローマだった。
「やったー」
晴れ渡る青空。ここはローマの玄関口、通称レオナルド・ダ・ヴィンチ空港。
大学三年生の夏休み中、三週間を使って私はここローマで過ごす。イタリア語学校に通いながらホームステイ。
ローマには何度か旅行に来ているから不安はない。
自由を満喫するぞと胸を躍らせながら、とりあえずメールを送る。
【無事、到着しました】
間もなく届いた返信。
【羽を伸ばし過ぎないように】
と同時に、義母の厳しいな眼差しが頭に浮かぶ。
はいはいわかりました。事件に巻き込まれないようにがんばりまーす。
義母は成田空港まで見送りに来てくれた。
『陽菜。なにをするにも十分注意しなさいね』
『はーい』
父が義母と再婚したのは私が十歳の時。
私の実母は私が四歳の時に病死している。入退院を繰り返していたので、悲しいかな実母の記憶はほとんどない。
私にとっての母は義母、希子さんだ。