契約結婚のススメ
 父が倒れたあの日以来、私の時間は止まっている。

「お父さんはどうだった?」
 いつの間にか斜向かいのソファーに義母が座っていた。

「うん。元気そうだったよ。早く仕事に復帰したいって」

「そう」

 微笑む義母の表情は寂しそうだ。

 義母と父は半分政略結婚でもあるけれど、とても仲がいい。

 父が倒れてしばらくは私と同じくらい義母の食欲も落ちて、ふたりでスカートが緩くなったと笑ったりした。

 最近は元気そうに見えるけど、それはあきらめがついたというよりも義母が強い人だからだと思う。

「陽菜、縁談のお返事だけど、どうする? お父さんはなんて?」

 チクリと胸が疼く。

「賛成してくれたわ。だから会ってみる」

「そう、よかった。じゃあ早速話を進めるわね」

 言うや否や立ち上がった義母はリビングを後にした。

 私はまだ二十二歳。大学を卒業したばかり。

 恋人もいないというのに、つい最近までは結婚なんて考えていなかった。

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