契約結婚のススメ
 お医者さまの話では父の余命はあと二年。

 私の目標なんて結婚してからだってできるけど、父に花嫁姿を見せるのは今しかできない。

 病室を出るとき、父はベッドからおりて廊下まで私を見送ってくれた。

 すっかり細くなった父の指と背中を見つめるうちに胸が押しつぶされそうになり、私は膝の上の手を握りしめて決意した。

 大丈夫だよお父さん、私が今の状況をなんとかするから。

 お見合い相手は義母の友人の息子、南城(なんじょう)家の御曹司だ。

 南城家が創業者である南城郵船株式会社は旧財閥をルーツに持つ海運業界のトップ企業である。輸送船の他、豪華クルーザーの客船事業も展開していて、一族は海運王と言われているらしい。

 写真を見せてくれなかった理由は、先入観なしで会ったほうがいいからだと、義母は言った。

 それだけ大きな会社の御曹司なのだからインターネットで検索すればわかるかもしれないけど、義母の言う通りのような気がしたので、調べていない。

 そのくせ義母は私の写真は先方に渡したらしい。

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