契約結婚のススメ
『陽菜の写真を見て、ひと目で気に入ってくれたそうよ。よかったわね』

 なんだかんだと私は義母の言う通りに生きている。

 義母がそう言うのだから大丈夫だと思ってしまう自分は、マリオネットのような人生を歩んでいるのかもしれない。
 だとしても決めたのは自分。後悔なんてしない。

 この結婚にすがる以外、私には希望がないのだから。

 味わう間もなく平らげたジェラートのカップを片付けながら、ふとキッチンのカレンダーを見れば昨日の赤い花マークが目に留まる。

 昨日は父と義母の結婚記念日だ。
 そうよ、お父さんたちだって政略結婚だったんだもん。

 父も義母との結婚にすがったのだ。

 料亭は高級であるがゆえに閉ざされた空間が売りだが、バブル崩壊や公務員の接待が厳しく問われるようになると利用客が激減した。

 それは枇杷亭も同じで、経営危機に陥ったらしい。

 その危機を救ったのが義母との再婚だった。

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