契約結婚のススメ
 医師会のドンと言われる義母の父が精力的に枇杷亭の大口顧客を引き入れ、危機を乗り越えたという。父は今でも義母の実家には遠慮があるようだけれど、それは仕方がないと思う。

 きっかけはどうあれ、父と義母はお互いを慈しみ合い、幸せな結婚生活を過ごしている。

 ふたりをずっと見ている私がそう思うのだから間違いない。

 私だってふたりのように幸せな政略結婚ができるはず。


 そして迎えた、お見合い当日。

 枇杷亭の娘なのだから枇杷亭で会うほうがいいかと義母は悩んだらしい。

 でも周りが知った人ばかりでは私が気まずいだろうと、とあるホテルの料亭の一室で会うことになった。

 少し早めに来たお陰で、先方はまだ到着していないようだ。

「ちょっと早すぎちゃったわね」

 約束の二十分前だった。

「緊張してるでしょ」

「うん。ちょっと。着物が苦しい」

 クスクスと義母は笑う。

「大丈夫。今日は練習だと思いなさい。一回目で上手くいったりしないわよ」

「そういうもん?」

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