契約結婚のススメ
 向かったのは学校からすぐ近くにあるコンドッティ通り。ブランド店が立ち並ぶこの通りの先にはスペイン広場がある。そのため観光客も多く気持ち的に安心できるし、ウインドショッピングをするだけでも楽しい。

 買い物の目的は義母へのお土産だ。
 小さなバッグにも入る財布がほしいって言っていたから、三つ折りのコンパクトな財布にするつもり。
 父とペアでもいいかも。などと思いながら歩いていると、通りの先に背の高いアジア系の男性が目に留まった。

 彼は難しい顔をしてスマートホンで話をしながら、こっちに向かって歩いて来る。

 切れ長の目、スッと通った鼻筋。身長は一八〇センチ以上あるだろうし、ラフに着こなしたシャツもよく似合っている。道行くイタリア男性の中にいても見劣りしない、とても素敵な人だ。

 というかむしろ目立っていて、肉食系のイタリア女子たちも熱い瞳で彼を見ている。
 近づくにつれ、彼の声が微かに聞こえてきた。

「ああ、わかった」
 あっ、日本語。日本人だったのか。

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