契約結婚のススメ

「それからこちら、郵便物です」

「サンキュ」

 すべて開封済みの郵便物は、重要度が高い順に並べられている。

 早速、手にとって見始めると「南城専務、あの……」と、秘書が声をかけてきた。

 言いよどむ彼女をチラリと見上げれば、珍しく困ったように眉尻を下げている。

「なんだ」

 俺の秘書、森下恵は美人だが愛想がない。常に無表情で感情を表に出さないのだ。
 まあそれが彼女の美徳でもあるが。

 数十億という利益が見込める契約が取れた時も、暴漢が襲ってきた時でさえ、秘書課随一といわれるクールな顔を能面のように貼り付けたままだった。

 そんな彼女が困惑している。

 一体どんな難題がそうさせるのか。椅子の背もたれに体を預けて、興味深く彼女を見つめた。

「結婚すると聞きましたが」

「ああ、式は半年後の九月だ」

「相手は大学を卒業したばかりのお嬢さんとか」

「そうだが?」

 森下は大きく息を吐き瞼を落とす。首を左右に振りながら。
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