契約結婚のススメ
 ローマでも、別れ際に連絡先のメモを渡してたのになんの連絡もなかったよな。なぜだ?

 まあいい。結婚すれば時間は十分にあるから聞いてみよう。

 それにしてもあれはおもしろかったな。

『アキラ! お待たせ』

 満面の笑みを浮かべた彼女が突然腕を掴んできたあの時、俺は確かに電話に気を取られていた。

 それでもバッグはしっかりと脇に挟んでいたから、そう簡単にスラれはしなかっただろうし、万がいち抜き取られてもいいように貴重品は入れていなかった。

 もし持っていかれたとしても気に留めなかっただろう。

 むしろ突然〝アキラ〟と呼ばれて、正面から腕を取られた方が驚いた。日本語でなければ、咄嗟に手首を捻って押さえつけていたかもしれない。

 新手のナンパか、とてつもない人違いかと思った。

 まさか俺を心配していたとはな。

 純粋な親切心だった。

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