契約結婚のススメ
 待ち合わせのホテルに行くと、すでに陽菜はロビーにいた。俺を見つけるなり、パッと花が咲いたような笑顔で手を振る。

 俺も笑顔で答えた。

「お待たせ」
「いいえ、私も今来たところです」

 見合いの日以降、陽菜とこうして会うのは二回目だ。

 先週に一度会って、今後のスケジュールやら具体的な話をした。結婚披露宴まではあと半年あるが、先に入籍を済ませ一緒に住もうという話になっている。

「おめかししてきたな」

 恥ずかしそうに頬を染めた陽菜は「ホテルで待ち合わせだから」と照れる。

「よく似合ってる」

 くすみブルーのワンピースは胸もとが着物のように合わせてある大人っぽいデザインだ。ゆったりと後頭部でまとめている髪に、ゆらゆらと華やぐイヤリング。

 今夜の陽菜は随分大人っぽい。
 女は化けるというが、こうして変化する陽菜を前にすると、なるほどと納得させられる。

「じゃあ、行こう。最上階のレストランを予約できたんだ。本当に大丈夫?」

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