契約結婚のススメ
 高層マンションが苦手だと言っていたから、念のため前もって夜景が見えるレストランもだめかと聞いてあった。

「あはは。住むわけじゃないから平気です。それに夜景は好きなんです。高さがよくわからないというか、なぜか夜なら高いところも平気で」

「そうか、よかった」

 エレベーターに乗る瞬間、腰に手を回した。

 一瞬ビクッと、陽菜は体を緊張させる。

 こうされることに慣れていないんだろう。

 希子さんは品行方正な娘だと評していたが、恐らくその通り。男と付き合った経験もないのかもしれない。
 エレベーターの箱の中はふたりだけ。恋人同士ならもう少し身を寄せあってもいいと思うが、最初からからかうのもかわいそうだ。

 そっと手を離す。

「あ、南城さん。結納の場所、本当に枇杷亭でいいんですか?」

「もちろんいいよ。こっちこそ悪いな披露宴」

「そんな。ぜーんぜんオッケーですよ。むしろとっても楽しみです。クルーザーなんて乗ったことないから」

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