契約結婚のススメ
 エレベーターが最上階に到着したところで、再び陽菜の腰に手を回す。キスはまだお預けでもこれくらいは慣れてもらわなきゃな。

 二度目のせいか、今度は緊張が伝わってこなかった。


「うわー、すごーい。綺麗」

 通された窓際の席。ちょうどキャンセルがあったおかげで取れた。

 夜なら高層でも平気というのは本当らしい。陽菜は瞳を輝かせながら窓の外に向けて首を伸ばしている。

 メニューを開いて希望はあるかと聞けば、陽菜は「南城さんと、同じでいいです」と答えた。

「おすすめメニューですよね?」

「ああ、そうしよう」

 ウエイターにシェフおすすめのコース料理を頼み、ふたりきりになったところで「陽菜」と、声をかけた。

「はい?」

「い・つ・き」

「あ……」
 目を丸くして陽菜は一瞬固まった。それから見る見る頬を赤く染め、唇をキュッと結んで恥ずかしそうにうつむく。

 表情がコロコロと変わる。

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