契約結婚のススメ
 ローマで出会った時も思ったが、この百面相がかわいくて、ずっと見ていたくなる。感受性が豊かなんだろう、なにを考えているのか丸見えなのもいい。

「俺は陽菜って呼んでるだろう? はい。練習」

「一貴……さん」

「はい、よくできました」

 笑うと片方だけにエクボができた。

「週末空いてる?」

「はい」

「よかった。指輪を見に行かないか? そしてデートしよう」

「デート?」

「ああ」

 うれしそうな微笑みにホッと安堵する。

 今の陽菜は一にも二にも父が優先だ。正直なところ、俺をどう思っているのかよくわからない。デートを喜んでくれるなら、少なからず好意的なんだろうが。

「二週間後、ロサンゼルス出張が決まったんだ。多分ひと月は帰れないと思うから」

「そうなんですか。大変ですね」

「悪いな。なかなか会えなくて、色々決めなくちゃいけないのに」

「いいえ。お仕事だもの仕方ないですよ」

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