契約結婚のススメ
 結婚までどれくらい東京にいられるか。ひと月のLA出張だけでは済まないだろう。国内の出張もあるし、いても残業続きだ。

 できればもう少し距離を縮めたいと思うが、今はそうも言っていられない。

 それが残念だ。



 ***



「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 一貴さんはわざわざタクシーを降りて、私が家に入るのを見届けてくれた。

 明日も仕事だというのに、鎌倉まで送ってもらったら無駄な時間を使わせてしまう。申し訳なくて断ったけれど、一貴さんは笑うだけ。

『行きは君と話ができるし、帰りは車内で休める。無駄なんてひとつもないさ』

 声も低くて穏やかで、話をすると安心できる。
 優しくて頼もしい人。

「お帰りなさい」

「ただいま」

 義母はもうお風呂も済ませたようで、リビングでくつろいでいた。

 飲酒の習慣はないのに、珍しくワインを飲んでいる。

「あなたもどう?」

「うん。じゃあ、先にお風呂入ってきちゃうね」

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