契約結婚のススメ
 電話を続ける彼を促すようにして、私は来た道を戻りつつ、横目でチラリと女の子たちを見た。

 女の子たちは逃げもしない。
 失敗したせいで逃げる必要がないのかもしれないけれど。淡々とした表情のない瞳がなんだか怖い。と思ったのも束の間、つんと横を向いた彼女たちは、次のターゲットを探すように辺りを見渡し始めた。

 肝が据わっているというかなんと言うか。

 中学生くらいにしか見えないけれど、子どもだと思っても侮れない、彼女たちの後ろにはマフィアがついていたりするらしい。万が一スリに遭い、なにかを取られても絶対に追いかけちゃいけないと、ホストマザーにも両親にも何度も念を押されている。

 間一髪、とにかくよかった。
 ホッと胸をなでおろし彼女たちから十メートルくらい離れたところで、私は彼の腕を掴んでいた手を緩めた。

 それにしても、懲りずに電話を続けているこの人もどうなの?
 ものすごく重要な電話なのかもしれないけれど、この状況わかっているのかな。

 やれやれ。

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