契約結婚のススメ
 一貴さんは予想通りの人で、怖いくらい順調だ。

 無謀な計画だったのに、こんなに幸せでいいのかな。

 父はとても喜んでくれた。一貴さんとふたりでお見舞いに行き、実は去年ローマで会っていたと告白すると楽しそうに笑って、『そんな偶然もあるんだなぁ』と目を細めた。

『精一杯、彼女を大切にします』

 一貴さんが父にそう言ってくれた時、これは契約結婚なんだとわかっていても胸が熱くなって涙が込み上げてきた。

 父は小さく何度もうなずいて『陽菜をよろしく』と、一貴さんに握手を求めた。

 精神的に安堵できたおかげか、今のところ病状は安定していて、次の検査結果次第では退院できるらしい。

 かといって、奇跡が起きるわけじゃないというのがお医者様の見解だ。
 悲しいけれど精一杯父を大切にしたい。

 帰り際、一貴さんがふいに『陽菜。一緒に行かないか? LA』と言った。

 すぐに『冗談だ』と笑ったけれど、本当に冗談だったのかな……。

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