契約結婚のススメ
 ジェラートにとどまらず甘いドルチェ全般に目のない私だけれど、その笑顔で言われたら嫌いでも好きだと答えたと思う。

「そう。よかった。じゃあ、すぐそこの、あの店とか」
 彼の指さす先を振り向けばカフェがあった。

 返事しようとして、ふいに義母の忠告が脳裏を過ぎる。
『知らない男に進められた飲食を口にしちゃだめよ』

 でも、彼が誘うのは夜のバーではなくて、外から店内が見える健全で明るいカフェだ。そもそもナンパされたわけでもないし。

「ではお言葉に甘えて」



 店内は中世にタイムトリップしたようなクラシカルな雰囲気に包まれている。もしかしたら教科書に載るようなローマの偉人も訪れたかもしれない。

 ひそかに興奮しつつ、キョロキョロと観察しながら彼の後ろに続いていくと、彼と女性店員の会話を聞いて、あれっと、驚いた。

 人数を告げる程度の短い会話だけれど、やけにイタリア語の発音がいい。

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