契約結婚のススメ
 友人たちはなにも知らない。

 枇杷亭が経営難なのも、父が余命いくばくもないのも、私は伝えていないから。

 この結婚は、皆が思っているような甘くファンタジーな出会いで芽生えた恋の結晶ではなくて、どこまでも現実的で大人の事情による結婚だということを。

 残念ながら、私たちに愛はないんだよ。

 でもね、芽生えそうではあるんだよ?

 もしかしたら愛し合う夫婦になれるのかもしれないの。

 そう思えるくらい、甘い夜を過ごしたから。

 ふふっ。

「いいなぁ、あんな素敵な人とキスとかしちゃうんでしょ」
 隣の席の友人が、ボソッとつぶやいた。
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