契約結婚のススメ
「店はあなたの好きにしたらいいわ」

 義母はちょうど陰になっているところいる。話をしている相手がちらりと見えた。

 柳美加?

 なんだかとても嫌な予感がして咄嗟に隠れた。
 隠れる必要なんてないのに〝店〟という単語が妙に引っ掛かったのだ。

「うれしい。ずっと夢だったから。ありがとう、おばさま」

「いいのよ。あなたならきっと枇杷亭のいい女将になれるわ」

 えっ?

「ふふ、楽しみ」

「でもまさか、あなたが一貴さんとそんな話をしていたなんてね」

 ズキッと胸が痛み、先を聞くのが怖くてその場を離れた。

 胸が苦しい。

 今のはいったい、なんの話……?

 柳美加が料亭の女将になるって?

 ショックのあまりカタカタと歯がぶつかり、口を押さえた。

 全然知らなかった。義母と柳美加があんな話をするほど親しい間柄だなんて。


 ふたりが直接話をしているのを初めて聞いたけど、ずいぶん仲睦まじい様子だった。

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