契約結婚のススメ
『でもまさか、あなたが一貴さんとそんな話をしていたなんてね』

 なんの話なの?

 おかあさん、お父さんが命がけで大切に守ってきた枇杷亭を、美加にあげようとしているの? 跡継ぎには副社長の叔父さんがいるのに?

 もしかして一貴さんもなにもかも承知で、私だけがなにも知らないの?

 だって、つい最近もみんなで枇杷亭を盛り上げようって、話したばかりじゃない。
 叔父さんが父を勇気づけるように『兄さんが復帰するまで俺ががんばるからな』って言ってたよね? 枇杷亭はなんとしても一族で守るって。

 ぐらりと目眩がして、慌てて壁に手をついた。

 落ち着かなきゃ。
 パーティーはまだ終わっていないのだから。

「ふぅ……」

 胸に手をあてて深呼吸をする。

 考えるのはあとにしよう。
 とりあえず、このパーティーを無事に終わらせなければ。私も主催者なんだもの。


 パンッ!

 火薬が弾ける音が響いた。花火だ。

 オープンデッキに上がると、皆花火を見上げていた。

 お陰で誰も私に気づかず、作り笑顔をせずに済んだ。

 一貴さんと一緒に見ようと思ったけれど、とてもそんな気分にはなれない。

 人混みに紛れて、空を見上げる。

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