契約結婚のススメ

　通されたのは二人用の席。向かい合わせに座ると距離が近くて、ちょっと身を乗り出せば彼の腕を簡単に掴めそうな小さなテーブルを囲む。

「昼食をとってなくてね、ちょうどよかった。俺はバニーニでも食べるから、君もジェラートだけじゃなくて好きなものを頼んで」

「はーい。ありがとうございます」

　渡されたメニューはシンプルだ。写真はついてなくてイタリア語だけが並んでいる。

　うーん、困った。
　ピザや軽食とドルチェ。全くわからないわけじゃないが、味つけや材料までは単語が読み取れない。

　眉間をひそめてメニューを睨んでいると、彼が女性店員に声を掛けた。

　え、もう注文しちゃうのと焦って顔をあげると、どうやらそうではないらしい。

　彼は女性店員と流暢なイタリア語で会話をしている。ゆっくり話すレッスンとは違うのであまり理解できないけれど、どうやらメニューについて聞いているようだ。