契約結婚のススメ

　それでも柳美加が出てきた時は一瞬唇が震え、頬が引きつりそうになった。

「今日はありがとう」と一貴さん。

「こちらこそ、お招きいただきありがとうございました」

　定型文のようなセリフを吐いた柳美加は、そのまま私に向き直り、義母との会話は幻だったのかと思うほど悪意のない美しい笑みを浮かべる。

「奥様も、おめでとうございます。末永くお幸せに」

「ありがとうございます」

「かわいらしいドレスがよくお似合いだわ」

　美加のような大人っぽいドレスとは違い、私のドレスはふんわりと横に広がるプリンセスラインのドレスだ。船内を歩きやすいようにミニ丈のドレスに着替えたので余計に子供っぽく見えるかもしれない。

　苦笑を浮かべると彼女は私だけに聞こえるようにそっと囁いた。

「発育不良のお嬢さん」

　え？

　最後に二ッと口角を上げて柳美加はクルーザーを降りていった。

　今のはなに？