契約結婚のススメ

 リビングを振り返り、時計を見た。
 針が示す時間は午後八時。

 一貴さんの帰宅はいつもこれくらいの時間になる。

 そろそろかなと部屋の中に入り、お皿を出したり夕食の準備を始めた。
 少しして、玄関のほうから扉の開く音が聞こえてくる。

 キッチンを離れて廊下に顔を出すと、書斎に入ろうとする一貴さんと目が合った。

「おかえりなさい」
「ただいま」

 にっこりと微笑む彼は、わりと律儀だ。

 一時間以上遅くなりそうな時はメッセージをくれる。急な会食が入ったりして用意した料理が無駄になると必ず『ごめんな』とあやまるのを忘れない。

 一貴さんは仕事から帰るといつも真っ先にシャワーを浴びる。

 私はその間に料理を仕上げる。

 今夜のメインメニューは甘辛く煮付けた魚と筑前煮。ぬか漬けにシジミのみそ汁という完全なる和食。

 食事はほとんどがハウスキーパーさんの手作りだ。

 週に二日はハウスキーパーさんが来て作り置きをしてくれるから、私はその料理の仕上げをしたり追加したりするだけ。

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