契約結婚のススメ
 筑前煮も煮魚もぬか漬けもハウスキーパーさんが作った。私の仕事は味噌汁作りと、筑前煮の盛り付けに絹さやを飾ったり、煮魚を温め直せばいいだけだから、楽ちんである。

 ハウスキーパーの利用は、義母や一貴さんに薦められた。

 私自身は料理を含め家事は嫌いじゃないし、仕事をしているわけでもないから頼まなくてもよかったけれど、ありがたく雇ってもらった。

 妻をがんばろうとは思っていないから、これでいい。

 ダイニングテーブルにランチョンマットを並べ、その間にドーンと煮物の大皿を置く。お味噌汁の火を止めたところで、素肌に紺色のガウンを羽織った一貴さんがきた。

 一貴さんは家で寛ぐほとんどをバスローブやガウンで過ごす。

 胸もとがはだけているから薄く割れた腹筋が見えたりするし、目のやり場に困ってしまう。

 こればかりはいつまで経っても慣れず、慌てて視線をそらした。

「ほぉ、金目の煮付けか」
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