御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
菫は引きずられまいと両足を踏ん張り掴まれた腕を振りほどこうとするが、塩田の手の力が強くてどうにもならない。

それどころか二次会に参加するメンバーたちが向かった方向とは逆に引きずられていく。

「塩田さん、は、離して。今日はもうこのまま帰りましょう」

必死で逆らっても華奢な菫の力では敵うわけなく、気付けばタクシー乗り場が迫っている。

こんなときに限ってタクシー待ちする人がいないうえに空車のタクシーが何台も並んでいる。

菫は顔をこわばらせた。

「や、やだ。離して」
 
このままだとタクシーに無理矢理乗せられてしまう。

菫は本気で怖くなり、自分もさっさと帰ればよかったと後悔しながら抵抗を続けた。

「おい、お前なにしてるんだ。菫、こっちにこい」

突然、ここにいるはずのない人の声が聞こえた。

すると大きな声に驚いたのか、塩田の手が一瞬菫の手から離れる。

その反動で大きく揺れた菫の身体は、素早く伸びてきた力強い腕に引き寄せられた。

「黎君……どうしてここに?」

突然菫と塩田の間に割って入ってきたのは知り合いの紅尾黎だった。

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