御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
厳しい表情を崩さない黎に圧倒されているのだ。
 
常に大企業の後継者としての立場を意識し、経済会の有力者とも付き合いがある黎と塩田では役者が違う。

酔っぱらっていても、塩田は自分との大きな違いに気付いたようだ。

「飲みに行きたければひとりでいけ。菫は俺が送っていく」
 
黎はきっぱりそう言うと、菫を胸に抱きしめた。

絶対に塩田には渡さないとばかりに力がこめられ、菫は促されるように黎の背中に両手を回した。
 
単なる友達だというのにここまで丁寧に守ってもらえ、菫は黎に愛されていると勘違いしそうになる。

「菫、彼は富川製紙の社員か? もしそうなら航に言って……おい、航」

「え?」
 
菫の頭上で黎が馴染みのある名前を呼んでいる。

菫は黎の視線の先を追った。

「あ、航君?」
 
少し離れた場所から航が菫と黎を見ながらこちらに向かって歩いている。

スマホを耳に当て、誰かと話しているようだ。
 
航は富川製紙の次期後継者だ。

菫は大学時代に果凛を通じて航と知り合ったのがきっかけで富川製紙に興味を抱き、運よく採用されたのだ。

「え、航君と一緒だったの?」

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