御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
すると、菫の耳にダイレクトに黎の心臓の音が聞こえてきた。

トクトクと響く規則的な音。

菫は黎の胸に耳を当て、その音に耳を澄ませる。

途切れることなく続く耳障りのいい音が、菫の心に穏やかな波紋を広げていく。

ふとこうして黎の胸に頭を乗せ幸せな時間を過ごせるのも、奇跡のように思えた。

今日母に実家に連れ戻されていたら、二度と黎に会えなくなっていたかもしれないのだ。

黎の子どもを身ごもった今、他の男性とのお見合いなどあり得ないとわかっているが、あの母のことだ、常識が通用しないかもしれない。

こうして黎に抱きついて体温を感じている今でさえ、そんな状況を想像するだけで苦しくなる。

菫は不安で落ち着かない気持ちをやりすごそうと、そっと息を吐き出した。

「なあ、菫」

仕事のやり取りが終わったのか、黎はスマホをサイドテーブルに置き菫の頬を撫でている。

「仕事、終わった?」

「仕事? あ、ああ、終わった」

黎は簡単に答えて菫に軽くキスをすると、彼女の両脇に手を差し入れ引き上げた。

「あ、あの、黎君」

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