御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
それまで黎の胸の上でもぞもぞしていた菫は、突然目の前に黎の顔が現れあたふたする。

「お母さんの話だけど。また菫の前に突然現れるかもしれないよな」

「うん。多分」

菫は明らかに落ちこみ、うなだれた。

「実家に戻りたくないし、仕事も辞めたくない」

か細い声でぽつりとつぶやく。

「だったら戻らなければいいし、仕事も続ければいい。第一俺の子どもが菫のお腹にいるのに見合いなんてありえないだろう」

あっけらかんと話す黎に、菫はそれはそうだけどと顔をしかめる。

母に愛された記憶に乏しい菫には母の考えが理解できず、この先どう出てくるのかが予想できない。

黎が考えるよりも面倒な相手なのだ。

「母さんのことだからもしかしたら今晩こっちに泊まって明日にでも会社におしかけるかもしれない」

「それもそうだな」
 
黎はとくにそれを深く気にする様子もなく軽くうなずいている。

その平然とした様子に菫は眉を寄せる。

まるで黎は菫が母に連れもどされても平気なように見えるのだ。

今も菫を胸に抱きながらなにやら考えこみ視線を揺らしている、菫のことなど眼中にないようだ。

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