御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました～愛を知らない彼女の婚前懐妊～

それまでの軽やかな声音から一変し、黎は表情を真剣なものに変え言い聞かせる。

それこそ菫が無茶をすれば仕事は辞めさせる勢いだ。

「だけど会社に母さんがおしかけて私を辞めさせようとしたら、どうしよう」

ふと不安がよぎり、菫は心細い声でつぶやいた。

勝手に退職届など出されたらどうすればいいのだろう。

菫は本気で不安を感じた。

「無理だろ、それ」

黎は菫を胸に抱き寄せ「冷静になれ」と言い聞かせる。

「会社が本人の了承や正当な理由もなく一方的に退職させるわけがないだろ。菫が会社を辞めたくなければ辞めなければいい。まず第一に尊重されるべきは菫の意志だ」

「あ、そうか」

黎の迷いのない言葉に菫は我に返る。

会社を退職するかどうかを、母に決められるわけがないのだ。

家を出たのをきっかけに母の支配から解放されたと思っていたのに、今もまだ母の影響が残っているのかもしれない。

「私……まだやりたいことがあるから。辞めない」
　
冷静な黎の言葉に助けられ、菫は落ち着きを取り戻す。

「菫がしたいようにすればいい。どうであれ俺は応援する」
　背中をポンポンと叩く黎の手がたのもしい。