御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
すると今まで身動きひとつしなかった菫がいきなり黎の首にしがみつき、ひくひく泣き出した。

「お、おい。菫、いったいどうしたんだよ」

なにがなんだかさっぱりわからず戸惑う黎に力一杯抱きついたまま、菫はそれからしばらく泣き続けていた。

「菫……」

涙の理由はわからないが、少なくともお腹の赤ちゃんになにかあったわけでも菫の体調が悪いわけでもなさそうだ。

今までにこれほど激しく泣いている菫を見たことがない。

自分の感情を胸にしまいこむのが得意なのに、よほどの理由があるのだろう。

黎は菫の気が済むまで泣かせておこうと決め、細い身体を優しく抱きしめた。
 
その後ようやく落ち着いた菫は顔を赤くし涙の理由を口にした。

『黎君と赤ちゃんと三人でずっと一緒にいられるのがうれしすぎて、結婚のことなんて全然思い浮かばなかったの。だから突然入籍なんて言われて驚いて、その後じわじわ幸せだなって実感しているうちに涙が止まらなくなっちゃった』
 
黎は菫の話にうなずきながら、改めてドラマティックなプロポーズを計画しようと決めた。
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