御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
配車アプリで呼んだタクシーに乗りこむ航は果凛に会えるのがよほどうれしいのか、終始頬が緩んでいた。
 
黎は航が乗ったタクシーが通りの向こうに消えていくのを見ながら面白がるように笑い声をあげた。

「果凛から連絡があった途端、ビール一杯で即お開き。航がなにより恋人を優先するのには慣れてるけど、あれで富川製紙の次期社長って最高だな」

「そうだね。果凛も航君ひと筋だし、仲がよくて本当にうらやましい」

「付き合い始めたのは大学の頃にしても、中学の頃から一緒にいるんだろ? 早く結婚すればいいのにな……まあ、航が社長に就任してからってことだろうな」

黎はそう言って苦笑した。黎も航と同様将来は大企業のトップに就く。

航の状況を自分のそれと重ね合わせているのだろう。
 
好きだという想いひとつで結婚を決められない黎の立場と過去を察し、菫はなにも言わず顔を背けた。
 
もしも紅尾ホールディングスの次期トップでなければ、黎はとっくに大学時代から付き合っていた恋人と結婚していたはずなのだ。

菫は黎が過去に手放した大切な存在を思い出し、切なくなる。
 
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