御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
「まだ落ち着かないか? 震えてる」
 
言葉とともに、黎の手が菫の頬を包みこんだ。
 
たしかにまだ身体が小刻みに震えている。塩田にからまれたショックから立ち直れていないのだ。黎は菫をそっと抱きしめた。

「ごめんなさい。黎君が来てくれたし全然平気なんだけど。どうしてだろ、あれ」
 
菫はぎこちない笑みを浮かべ、黎を安心させるように見上げる。

それでも震えが止まる兆しは見えず、黎はたまらず力をこめてさらに強く菫を抱きしめた。

「俺に強がらなくていい」

「う……ん」
 
黎の絞り出すような声が菫の耳元を刺激し、全身にそれまでとは違う別の震えが走るのを感じた。 
 
黎は以前から菫に優しいが、いきなり抱きしめたり頬を撫でたりするようなタイプではない。

どれほど親しくなっても礼儀をわきまえ、友達としての距離を意識し慎重だった。

それなのに今、菫は黎の腕の中に閉じこめられ吐息まで感じている。
 
黎の優しさに気持ちを揺らすのは初めてではないが、今回の黎の優しさは今までとは格段に違う。

「今日は一段と冷えるな……これ、巻いておけ」

「え?」
 
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