御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
「そうだな。ごちそうさま。今日もおいしかった」

「いえいえ。このくらいしか私にはできないから」

ふと菫の脳裏に酒井の顔が浮かんだ。

黎と対等に仕事をしている優秀な女性だ。

菫は食事でしか黎をサポートできない自分の拙さを改めて思いだし、ほんの少し落ちこんだ。
 
黎がバスルームに消えてすぐ、菫のスマホが着信を告げた。

画面を見ると菖蒲の名前が表示されていて一瞬出るのをためらった。

けれど見合いの話からこれ以上逃げられないと覚悟を決め、菫は電話に出た。

「もしもし、菖蒲?」

「悟君と会ったんでしょう?」

前置きもなく耳に飛びこんできた大きな声に菫はぎょっとする。

「え、菖蒲? いったいなにを――」

「菫ちゃんはどうして悟君じゃだめなの? 畑中建設の社長夫人のなにが不満なの?」

「ちょ、ちょっと菖蒲、落ち着いてよ。なにを言ってるのかよく……え、悟君?」

悟を親しげに呼ぶ菖蒲に違和感を覚える。

吹奏楽部の仲間だった菫ならともかく悟との接点がない菖蒲がどうして名前呼びしているのかが気になった。

「菖蒲、悟先輩と親しいの? 高校も違ったはずだよね」

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