御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
最後のほうは叫び声にも近く、菫はスマホを手に言葉を失った。

菫と違っていつも冷静で落ち着いている菖蒲がここまで声を荒げるのはめずらしい。

気配り上手で誰からも頼りにされている菖蒲には、こんな一面があったのだ。

「それに、悟君は家族思いで優しいし、会社の将来だって真面目に考えてる。だから今あんな大きな会社で苦労してるんだよ。結婚したら絶対に幸せになれるから、だから……」

 菖蒲の声がそこで途切れ、それまで聞こえていた甲高い声に代わってくぐもった声が聞こえてきた。

「……うっ……う」

菖蒲は泣いているのだ。

スマホの向こう側から悲しげな嗚咽が届き、菫は耳に当てたスマホを強く握りしめた。

「菖蒲、もしかして悟先輩が好きなの? ううん、好きなんだよね」

 菖蒲からの返事はない。しゃくりあげる気配と涙をこらえる息づかいだけが届いてくる。

「菖蒲、悟先輩とは――」

「無理に決まってる。私たちは絶対に結婚できないの。だって、私は菫ちゃんみたいに自由じゃないもん。幼稚園を継いで守らなきゃいけないから悟君とは結婚したくてもできないの」

「あ……」

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