御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
菖蒲の悲痛な叫び声を聞き、菫はハッとする。

自分が自由であると意識したことはないが、菖蒲の言葉に反論できない。

実家でつらい思いを重ねてきたとはいえ、今の菫はなにもかもをひとりで決め、進み、そして悩むことができる。

もちろん喜びも楽しみもたくさん経験してきた。

それが自由だというのなら、菖蒲にその自由はなかったはずだ。

両親の下で幼稚園の将来のために自分の時間を捧げて自由とはほど遠い日々を送ってきたのだろう。

菫は胸に鋭い痛みを覚え、大きく顔をゆがめた。

「菫ちゃんお願い。悟君と結婚してよ。他の女の人に譲るくらいなら菫ちゃんがいい。だったら私……悟君をあきらめられるのに」
 
涙混じりの悲しい声が聞こえ、そこで電話は切れた。

「菖蒲っ」

最後に聞いた菖蒲の苦しい声が耳から離れない。

菖蒲と悟がどんな関係なのかはわからないが、少なくとも菖蒲は悟を愛していて結婚を望んでいる。

もしかしたら悟も同じ気持ちなのかもしれない。

「あっ」

菫は会社に現れた悟が口にした言葉を思い出した。

〝自分には幼稚園を守る責任がある〟

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