御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
菫の首元が柔らかな温かさで包まれた。

「年明け早々風邪ひくなよ」
 
黎は自分が使っていたベージュのマフラーを菫の首にぐるぐる巻く。

「え、いいよ。黎君が風邪をひいちゃう」

「身体だけは丈夫だから気にするな。あ、タクシーを拾うけど大通りまで歩けるか?」

「で、でも」

黎に巻かれたマフラーに顔を埋めながら、菫はぶんぶんと首を横に振る。

そしてマフラーを黎に返そうとするも、黎がその動きを遮り、菫の手首を掴んだ。

「似合ってるからそのまま着けてろ。それよりさっさと行くぞ」

「あ、ありがとう……」

黎は菫の手を引き歩き出した。

「ん?」

黎の後をついて歩きながら、菫はふと首をひねる。

黎と手をつないで歩くなど滅多にない。

思い返しても、人混みではぐれないためにだとか菫が靴擦れで足を痛めたというれっきとした理由があったときだ。

それなのに今、黎は当然とばかりに菫の手を引き歩いている。

ただでさえスキンシップ過多の黎に振り回され混乱しているのに、さらにわけがわからなくなる。

「今日は満月か」

菫に合わせてゆっくり歩きながら、黎が空を見上げた。

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