御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
妊娠がわかって以来、黎は頻繁にこうして赤ちゃんに近づこうと一生懸命だ。

〝うちのちび〟という呼び方は、最近思いついたお気に入りらしく、ことあるごとに使ってはにんまり笑っている。

「おーい、ちび。今日もお疲れ。生まれてきたら一緒にパンダを見にいこうな」

お腹の中の赤ちゃんに毎晩話しかける姿も様になってきた。

「菫もお疲れさま」
 
赤ちゃんとの交流を終えた黎は、菫の唇にかすめるだけのキスを落とした。

「とりあえずちびより先にパンダを見に行きたいよな。明日にでも行きたいくらいなんだけどな……あ、悪い。明日から一泊で出張なんだ。金曜日には菫に食べさせたいって言ってたハンバーグの店を予約してるから、さびしくてもそれを期待して待ってろ」

「え、出張? 急だね」

「ああ。営業が大口の契約を取れそうだから開発者にも同行してほしいらしい。たまにあるんだ」

そう言って黎は菫の腰を抱き寄せる。そして菫の肩に額を乗せ小さくため息をついた。

「さびしいのは俺のほうかもな。せっかく菫と一緒にいられるのに泊まりの出張なんて、最悪だ」

仕事の疲れもあるのだろう、その声はひどく沈んでいる。

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