御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
菫は黎の身体に両手を回し、抱きしめた。湯上がりの身体はとても温かい。

「気をつけて行ってきてね。ハンバーグ、楽しみにして待ってる」

黎の胸に顔を埋め、さびしさをやり過ごす。

この家で暮らすようになってひとりで夜を過ごすのは初めてだ。

さびしさと同じくらい不安も感じている。

「なにかあればコンシェルジュに連絡すればいいから」

「うん、大丈夫」

菫はもぞもぞと身体を動かしいっそう強く黎の身体にしがみつく。

前なら恥ずかしくてできなかったが、今では黎の膝の上に自ら腰を下ろしてしがみつけるようになった。

そうすると、破顔した黎が強く抱きしめてくれるのだ。

もちろん今も。

「あー、出張に連れて行きたい」

子どものようにごねる黎の声を耳元で聞きながら、菫は心からの幸せを感じた。

黎の腕の中は、不安もさびしさもすべて忘れられる特別な場所だ。

今こうして黎に抱きしめられている幸運には感謝しかない。

けれどこの幸運は、菖蒲になにもかもを押しつけ犠牲を強いた結果なのかもしれない。

菫は自分のことしか考えられなかったこれまでを悔やみ、さらに強く黎にしがみついた。 

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