御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
肩透かしをくらったみたいで腹立たしい。

菫は子どものように顔をしかめた。

黎はそんな菫の様子をしばらく眺めた後「鈍すぎ」とだけ言って視線を戻す。

同時にそれまでつないでいた手をほどき、菫の肩を抱き寄せた。

「え?」

菫は勢いよく黎の胸に飛びこみ、顔を埋める。

「まだ震えてるな。……心配だからこのまま俺の家に連れて帰りたい。ひとりにしたくないんだ」

「黎君?」

「足元もふらついてる。まだ怖いんだろ?」

幾分小さくなったとはいえ、たしかに菫の身体はまだ震えていた。

おまけになんでもない振りをしていたが、足元に力が入らずうまく歩けない。

「大丈夫。そのうち治まると思うから」

これまでなにがあってもひとりで感情に折り合いをつけてきたのだ。

この程度のことなら黎に頼らなくてもやりすごせる。

「ふうん」

黎はちらりと菫に視線を向け、訝かしげな表情を浮かべた。

「菫の大丈夫は信用してない。それに菫が心配で、俺の方が大丈夫じゃない」

「え……」

「弱ってるときくらい、俺に守らせてくれ」

黎の温かな手が菫の頬をしっとりと撫で、反論しないよう親指で菫の唇を塞いだ。

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