御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
黎の自宅がある二十階までは高速エレベーターであっという間。

普段は感動するその速さも、今は逆にうらめしいほどだ。

「冷蔵庫に菫が好きな林(りん)檎(ご)ジュースがあるから飲んで待ってて」
 
黎は自宅のリビングに入るなりそう言うと、着替えのために寝室に消えた。
 
取り残された菫は落ち着かない気分でしばらくその場で黎が戻るのを待っていたが、寝室をチラリと見ても、戻ってくる気配はない。

「どうしよう……」
 
菫は次第に大きくなる緊張感に耐えられず、黎が戻ってくる前に帰ろうかと考えた。

けれど菫を心配してわざわざ連れ帰ってくれた黎の優しさを思い出し、それは失礼だからやめておこうと考え直す。
 
白みがかった木目調で統一されたリビングはとても広く、センスのいい家具が揃っている。

中でも深い紫色が目を引く猫足の椅子が菫のお気に入りだ。

それはベンチタイプの椅子で、以前果凛たちとこの部屋に来たときにたまたまネットで見つけ、その個性的なフォルムや黒い枠に紫の背もたれという印象的なコントラストに目が釘付けになった。

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