御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
菫の様子を見ていた黎が「それほど気に入ったなら俺が買っておくからいつでも来て使えばいい」と言って躊躇なく注文ボタンをクリックし、菫は言葉を失った。
 
それは職人手作りの一点物というだけあって決して安くない。

なにより室内の雰囲気とはまるで違うデザインだ。

菫は黎に何度もキャンセルするよう訴えたが、黎は菫の言葉を聞き流し、なぜか満足そうな笑みを浮かべていた。

『菫の名前にぴったりの椅子だな。届いたらすぐに連絡する』
 
黎の部屋のインテリアと猫足のソファ。どう配置しても馴染みそうにない。

やはり菫のために取り寄せてくれたのだろう。

さすが紅尾家の御曹司、一般人とは感覚が違う。
 
菫は黎の気遣いを申し訳なく思う一方で、菫が自分の名前にちなんで紫色を好むことなど知らないはずの黎の言葉が心に響き、それ以上なにも言えなかった。
 
本音では黎がソファを買ってくれたのがうれしくてたまらなかったのだ。
 
菫は猫足のソファの端にバッグとコートを重ね置き、腰かけた。
 
ひとりでここを訪ねたのは初めてで、予想以上に落ち着かず神経質になっている。

「どうしよう……」
 
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