御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
力なくつぶやき、何度目かもわからないため息を吐きだした。

「まだ落ち着かないのか? ひとりにして悪かった」

シャワーを浴びたのか、黎が濡れた髪をタオルで拭きながら目の前に立っている。

百八十センチを超えるスラリとした長身かつ女性からの注目抜群の秀麗な容姿の黎は、仕立てのいいスーツだけでなく単なるスウェット姿も様になっている。
 
これに大企業の次期後継者という肩書きが加わるのだ、どこをどう切り取っても無敵の男性に違いない。

「大丈夫か?」

黎は菫の足もとに膝をつき、大きな手で菫の頬を包みこんだ。

「顔色はまだそれほどよくないけど、震えは止まったようだな」

黎は菫が落ち着いているのを確認し、ホッと息をつく。

「野島さんだっけ? 彼があの酔っ払いに厳しく言ってくれるだろうし、今後なにかあれば航に言えばいい。釘を刺してくれるはずだ」

「大丈夫。塩田さんももうあんなことはしないと思うから」

黎は塩田のせいで菫の口数が少ないのだと誤解しているようだ。

たしかに塩田に無理矢理タクシーに押しこまれそうになったときには背筋がぞっとしたが、今ではすっかり落ち着いている。

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