御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
黎の過剰な気遣いを遠慮しながらも、ここまで心配されてうれしくないわけがない。

心がじんわりと温かくなる。

実家に頼れずひとりで暮らしている菫にとって、黎は誰よりも頼れる存在なのだ。

本音を言えば黎の言葉に甘えてしまいたいが、それはあまりにも図々しい。

第一、黎は今も別れた恋人を想い続けているのだ。

そんな黎にこれ以上負担をかけられない。

「菫? どうした。やっぱりまだ――」

「あ、ごめんね。ただぼんやりしていただけ。塩田さんのことなら大丈夫」

黎が別れた恋人を忘れられずにいることを思いだして考えこむ菫を、黎は不安げに見つめている。

どこまで優しいのだろう。

まるで黎の方が塩田に傷つけられたように見える。

菫は黎への想いが胸にあふれるのを感じた。

そして今でもまだ黎を好きだと思い知らされる。

「そうだ林檎ジュース」

菫はこの場の空気を変えようと、無理矢理笑顔を浮かべた。

「青森の林檎ジュースでしょ? 後でもらっていい? そういえば去年、あまりにもおいしくて私と果凛でたくさん飲んじゃったね」

「そうだったな。今年も好きなだけ飲んでいいぞ」

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