御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
菫は黎とふたりきりで過ごす夜を想像し、落ち着かない気分になる。黎が友達としか思っていない菫に手を出すとは思わないが、菫にとって黎は片想いの相手だ。

平静ではいられない。

「あ、あの。やっぱり年明けは忙しい?」

菫はそわそわする気持ちを紛らわせようと、当たり障りのない言葉を口にした。

話の腰を折られた黎は一瞬眉を寄せ、ぞんざいに答える。

「ああ。毎年のことだけどな。三月納期の依頼も多いから、まあ仕方がないんだ」 

黎は紅尾システムソリューションでシステム開発をしている。

企業の社内システムの構築・運用、そしてサポート業務を請け負っているらしいが、政府や各省庁からの受注も多く、いつも忙しそうにしている。

海外にも支店がいくつかあり、黎が現地に行く機会は多い。

たしか先月もヨーロッパに二週間ほど行っていたはずだ。

「身体を壊さないようにね。ひとり暮らしだから食事にも気をつけなきゃ」

「わかってるよ」

黎は軽い口調で答える。

いずれ父親の跡を継いで大企業のトップに就かなければならない黎は、その立場に見合う実績を残そうと一生懸命だ。
 
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