御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
同じ立場の航とは大学時代から仲がよく、卒業後も定期的に会って情報交換をしているらしい。

とくに富川製紙のシステム開発・管理を黎の会社が一手に引き受けていることから、公私ともに顔を合わせる機会は多いと聞いている。

「困ってる菫を助けられてよかったよ。他の誰でもなく、俺があの場にいられてよかった」

「あ……それは、ありがとう。感謝してる」
 
塩田の件では間一髪のところで助けてもらった。

菫は改めて礼を述べ軽く頭を下げる。

「何度も言うけどまたなにかあれば俺に言えよ。近くにいる俺ならいつでも菫を助けてやれるから」

感情を表情に乗せない黎にはめずらしく、どこか悲しげに口元を歪めている。

なにが黎をそんな表情にさせるのか、菫にはその理由が思い浮かばない。

それにスキンシップの多さもそうだが口にする言葉からも普段とは違うニュアンスが感じられ、どうにも落ち着かない。

「どうした? 妙な顔をして。まあ、それもかわいいけどな」

「……酔ってる? 私をおだててもなにも出ないよ」
 
お世辞だとわかっていても頬が熱くなるのを抑えられず、菫は呆れた風を装ってごまかした。

< 36 / 294 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop