御曹司の激愛に身を委ねたら、愛し子を授かりました~愛を知らない彼女の婚前懐妊~
その間、菫は黎の邪魔にならないよう気を使いながらキッチンで料理に勤しんでいる。

汚れひとつないフラットなコンロには、ワインの香りが食欲をそそるパスタソースが入った鍋がある。

黎のリクエストに応えて作ったボロネーゼだ。

あとはパスタを茹でればいいのだが、黎の仕事の状況がわからず、パスタを茹でるタイミングを図りかねていた。

「せっかく来てくれたのに、慌ただしくて悪いな」

ひとまずお湯を沸かしておこうと、菫が鍋をコンロに置いたとき、黎が戻ってきた。

よほど面倒な話だったのか、眉間を指でマッサージする姿は疲れている。

「お、期待通りのボロネーゼ。この香りが気になって、来週のシステム移行の話どころじゃなかったよ」

黎は気だるげに菫の肩を抱きソースが入った鍋を覗きこんだ。

「仕事、大丈夫だった?」

いきなり身体を寄せる黎に、菫は顔を赤くする。

「ああ、大丈夫。去年銀行の合併がいくつかあっただろ? その中のひとつなんだけど、両行のシステムを統一する作業を週末ごとにやってるんだよ」

「あ、テレビでも大々的に告知してるやつでしょ? 大変だね」

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