気付いたら有名な婚約破棄のシーンだったので傍観者になってみようと思ったけれど、婚約破棄された悪役令嬢がいい娘すぎたのでちょっとだけ彼女の幸せを願ってみた
 そうだそうだ、とユカエルは思った。自分もシエラの友達の一人なのだ。あのクソ皇太子から見たら取り巻きというものに分類されるのか、悔しいわ。

「他にもありますか?」
 凛とした声が響く。「それだけですか? それだけのことで婚約を破棄されるのですね?」

 でもユカエルにはシエラの心の声が聞こえたような気がした。

 ――破棄するなら破棄してもらってかまわないんだけど。どうでもいいし、こんな奴。

 実際、シエラはそんな風には言っていない。ちょっとしたお茶の席で、婚約者について愚痴っただけだ。留学生という立場のユカエルには愚痴を言いやすかったのだろう。

 ――シエラは頑張っているもの。いいのよ、いくらでも愚痴を言ってちょうだい。私には愚痴を聞くだけしかできないけど。それでシエラが楽になるなら、それだけで嬉しい。

 そう言うユカエルにシエラはびっくりして、少し目尻に浮かんでいた涙をその白くて細い指で拭っていた。

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