気付いたら有名な婚約破棄のシーンだったので傍観者になってみようと思ったけれど、婚約破棄された悪役令嬢がいい娘すぎたのでちょっとだけ彼女の幸せを願ってみた
 それから少しシエラ嬢とお茶会の機会を持ち、少しずつ接触を試みてみたものの、なんともまぁ、すでに婚約者がいたというオチで。そのときのディオン様の落ち込み方は異様だった。肩から負のオーラを放って、その負のオーラで花瓶の花が枯れるんじゃないかと心配してしまうほど。

 卒業パーティなんて出席できる気分ではない、と言っていたディオン様を無理やり誘ったのもユカエル。出席したらいいことありますよ、なんて、注射を嫌がる子供をお菓子でなだめるような感じで連れてきた。

 そう、そのいいことが、まさしく今。

「ルミュー殿。少し口を挟んでもよろしいか」
 傍観していた人込みをかきわけて、ディオンが一歩前に飛び出た。

「これはこれはディオン殿。我が国のみっともないところをお見せして申し訳ない」
 とルミューが口を開いたときに、後ろの小動物が「え、なんでディオンがいるのよ」と呟いたのを、ユカエルは聞き逃していない。

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